ラルス・ジーモンは属国を許さなかった。征服した国は城を跡形もなく焼かれ、破壊され、由緒(ゆいしょ)正しいたくさんの優れた王族の血が、戦場でことごとく途絶えた。

ラルス・ジーモンは常に戦争に出向き、征服した王の首を自らの剣で取ったと伝えられている。そして城に火をつける前に、かつて自分の贈った肖像画を壁から取り外し、次に征服する国へと運ばせた。すなわち二枚目の肖像画は、死の宣告として贈られたのだ。

西方の十三カ国は同盟を結び、勢いが衰えることを知らぬランゴバルト国の脅威に対抗した。もはや隣国同士で国境間の争いをしている場合ではなかった。

ランゴバルト大国と西方同盟国の間に横たわる自然の恩恵、マンスフェルトの巨大な森が、今や唯一の最も強力な(とりで)であった。

その後戦争は暗黙のうちに、唐突に休戦状態に入った。巨大帝国はその後数年間、不気味な沈黙を保った。西方の同盟国は何とか間者を送りこんで、敵国の動向を模索しようとした。できれば使者を遣わせ友好な停戦を申し出たいと願う国が半数だった。

マンスフェルトの森は人が越えることはできない。大地は磁場(じば)が狂い、氷河をたたえた山脈が横たわっていた。

東方との行き来は、北方の海側から船でひと月近く航海して行われていた。つまりランゴバルト国は海からの征服を準備しているに違いなかった。当然西方諸国は、海軍の養成に力を入れ、北方の岸辺に何里にもわたる長く強大な砦、「要塞壁(ようさいへき)」を築き、来るべき抗戦に備えた。

闇に包まれた敵国の様子を探ろうと、この十数年、数知れない間者、斥候(せっこう)の類が東方へ向かったが、一人として戻ってくる者はいなかった。

そしてある年の冬、それは唐突に訪れた。マンスフェルトの森の東、山脈の果てから空を覆い隠すような真っ黒な雲と炎を西方の人々は目にした。

その巨大な黒雲は、十日の間、空を覆い尽くし、日の光を遮断し、西方の国々は闇に包まれたといわれている。

ランゴバルト国は山脈の東側のマンスフェルトの森をことごとく焼き払ったのだ。

マンスフェルトの森が山火事でどのくらい失われたのか、山脈の反対側を調査する(すべ)はなかった。

その数年後から、西方十三の同盟国は、たびたび現れるランゴバルト国の大艦隊と海上で争い、恐怖の海軍の上陸を阻止した。

西方同盟国の優れた騎士、将軍らは結束し、見事な作戦で、西方諸国の海上権を守り抜いた。裏工作や裏切りによって隣国を出し抜くという行為は、全くなかった。

残された西方の国々は強大な敵国、ランゴバルト国を相手にひとつになったのだ。

しかしラルス・ジーモンが魔王と呼ばれたのは、その比類ない冷徹残忍さのせいだけではない。いつからともなく奇妙な噂が流れ、やがて西方諸国にも伝わってきた。

〈ラルス・ジーモンは不死身だ。〉