真相―ヤメ検が暴く
犯行当日の夕方、近鉄生駒線の平群駅近くのファミリーレストランに寄ったとき、偶然レストランを出たところで田所社長と出くわした。
久しぶりだなと声をかけられた後、社長から「何か仕事をしているのか」と聞かれた。
仕事もなく、ブラブラとしていた高山が応じると、社長が親切に誘った。
「お前のことはずっと気になっとったんだわ。金になる仕事があるぞ」
「後で事務所に来ないか。今日は遅くまでいるから」
高山は、これはいい金もうけの仕事を紹介してもらえるかもと期待して、事務所を訪ねる約束をした。
約束の一〇時ごろ、高山は一人で車を運転してS合成樹脂へ行く。事務所に上がると、田所社長が一人でいた。
事務所で、社長は社長用の椅子に座り、高山はすぐそばの応接セットのソファーに座った。
社長の金もうけの仕事というのは、聞くとこういうものだった。
「中国からレンガを密輸して、それをいくつかの密売ルートに流してもうける。その手伝いをしてみないか」という。レンガというのは、シャブつまり覚せい剤の塊のことを指した。
かなり危ない橋を渡るもので、とても乗れる話ではなかった。すぐに断った。
ところが、田所社長は豹変し、それを脅しで強要し出した。
「お前、何言ってんだ。この話は、大阪のヤクザもからんでいるんだぞ。一度聞いたら断れるわけないだろう」
田所社長のその掌を返すような態度にカーッとなり頭に血が上ってしまった。