というのも田所社長の周囲を洗うも、それにつながる話はまったく出て来なかったからだ。

当時、高山が付き合っていた女性。それが今回、生駒山中で一緒に変死体で発見された小山麗子だった。

当時、警察はこの小山にも当たっている。

この小山から少し気にかかる話が出ていた。

「はっきりしないけど、事件のあった晩は、敦史は友達の平野孝夫さんと一緒に飲みに行っていたと思うけど」というものだった。

当然、警察はこの平野も当たった。

平野は、事件当夜、高山と一緒にJR王寺駅の近くのスナックで飲んでいた。

時間は午後八時前ごろから一〇時少し前だったように思う。店を出てから、近くのスーパーの前で別れた、ということだった。

当時、高山は王寺駅の近くのアパートに一人で住んでいた。王寺駅は近鉄生駒線とJR大和路線が乗り入れしている。

午後一〇時前であれば、現場まで距離にして五、六キロ、車で数分であり、犯行は十分可能だった。

警察はスナックの裏付けもした。

当夜、スナックのママは休みで、アルバイトの若い女の子だけが出ていた。

当夜、お客はこの平野と高山だけだった。そういうこともあり、この女の子は二人を覚えていた。

入店時間は、午後七時半に店を開けてしばらくした午後八時ごろということだったが、肝心の店を出た時間の詰めがどうしてもできなかった。二時間ほどいたと思うが、一〇時前だったのか、過ぎていたのかはっきりしなかった。

当初、高山はこの平野と一緒に飲みに行っていた話はしていなかった。レストランで一人で食事した後、田所社長との約束の時間までまだ時間があったので、車で時間つぶしにブラブラとしたというものだった。

平野とスナックの裏付けが取れて、それをぶつけると、ようやく高山はそれを認めた。