社長が高山の返事を待つようにして、椅子に座ったまま背を向けた時だった。その背後から、すぐそばの脇机の上にあった、鉄製の文鎮を掴んで、社長の後頭部を殴りつけた。

一撃だった。

血が肉骨片もろとも飛び散り、社長はウッという呻き声を上げて椅子ごとその場に倒れ込んだ。

高山は、凶器の文鎮を隠し持ったまま、すぐにその場から立ち去り、車で逃走した。

途中、竜田川の近くを車で走っているとき、凶器の文鎮を川に投げ捨てた。

この文鎮は、高山の自供が得られてから、川ざらいで発見されている。

一九九四年三月二二日、平群カントリークラブで開催されたゴルフコンペでのこと。田所社長が一三番一七五ヤードのショートホールで見事ホールインワンを達成し、その記念で特注製造し、コンペ仲間にも配った文鎮だった。

鉄製で重量感があった。

数字の「1」の形をした大きな文鎮。上がカギ状、下は逆T字になっていた。上の方を手で掴むと、さながらハンマーだった。

よく見ると「HOLE IN ONE スポーツ振興平群C.C.NO13 175Y 1994.3.22 Z. TADOKORO」と刻まれていた。

高山は、これで社長の後頭部を殴り付けたとき、飛び散った血が着ていたジャンパーやズボンに付いた。

このジャンパーやズボンは、現場から逃走したあと、自宅アパートで着替え、大きな黒色ビニール袋に入れてゴミに出して捨てたため、見つかっていない。

いきさつの中で出てきたファミリーレストランの裏付けも取れた。ほぼ高山の自供通りのメニューで、入店が当日午後五時二一分。ハンバーグステーキと生ビールを注文。午後六時一三分に会計を済ましていた。

これに被害者の血が付いた服が押収されておれば、申し分なかったが、ゴミに出して廃棄したとなれば仕方がなかった。

ただ、高山が語る動機面は、どうしても唐突感が否めなかった。

覚せい剤の取引によるもうけ話は本当なのか。疑問が残った。