「あ、そうね、実は、和華子さんのおばあさんがちょうど私の家の裏にお一人で住んでいらっしゃったの。そのおばあさんが入院されることになったんで、お孫さんの和華子さんがそのお世話をしに京都から来られて、暫くそのおばあさんの家で泊まられていたのよ。それが私たちが小学校六年生の時で、和華子さんとの出会いのきっかけ」
橘子が話しだすと、紀理子さんも興味深そうな眼になった。
「この葉書きにもおばあさんのことちょっと書いてあったはずよ。あ、言っとくけど、私もほとんどおなじ内容の絵葉書を和華子さんから貰ってるの」
「え、橘子さんも?」
紀理子さんは少しおどろいた。
「だって、二人ともおなじように和華子さんとなかよくしていたもの。絵葉書が届いた時、お互いに見せっこしたから、内容も知ってる。もう九年も前だけど、和華子さんからのだから今もよくおぼえてるわ。和華子さんが来られて一ヵ月程して、結局おばあさん転院することになって、娘さん─和華子さんのおかあさんなんだけど─が京都におられるから、そこのおおきな病院に移られたの。和華子さんもその時一緒に京都へかえられた。その後にこの葉書きをくださったの。
ちょうど京都は五山の送り火の季節だったから、その絵柄の絵葉書だったんじゃないかしら。私はそうおぼえてるけど、清躬くんのも送り火の絵柄だったでしょ?」
紀理子さんは「ええ」と小さくうなづいた。
※本記事は、2021年1月刊行の書籍『相生 上 』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
【相生 上 登場人物】
檍原橘子 20歳。地方の短大を出て就職で上京。
檍原清躬 20歳。橘子の幼馴染。特殊な絵の才能の持ち主。
清躬の父
清躬の母
棟方紀理子 20歳。大学生。清躬の戀こい人びとだが、別離した。
津島さん棟方家のメイド。
小鳥井和華子 橘子、清躬の小学校時代の憬あこがれのおねえさん。
和歌木先生 清躬の小学校四年生の時の担任の先生。
杵島紗依里 一時期、清躬の親がわりとなった女性。
鳥上海祢子 橘子の職場の先輩(教育指導係)。
緋之川鐵仁 橘子の職場の先輩。
松柏さん 緋之川の戀人。
寮監さん夫妻 橘子の住む寮の管理人夫妻。
会社の健康管理室の看護師
小稲羽鳴海(ナルちゃん)9歳。清躬となかよしの利発な子。
小稲羽梓紗 鳴海の母。同居はしていないが、神麗守の母でもある。
和邇青年の想い人 梓紗の母。和邇の青年時代に戀い憬れたひと。
神麗守(小稲羽神陽農) 15歳。和邇家で養育されている。
紅麗緒 15歳。神麗守と一緒にくらしている。
和邇のおじさん 資産家。東京に大きな屋敷を構えている。
根雨詩真音(ネマ) 20歳。大学生。彪のグループメンバー。詩真音の母和邇家の家政を担当。
隠綺梛藝佐 23歳。和邇家で、神麗守、紅麗緒の養育を担当。梛藝佐の姉医大を出て、病院勤務。和邇家の主治医。
和多のおじさん、おばさん 和邇の元部下。建設会社などを経営。
楠石のおじさん、おばさん 和邇家の車まわりや庭の手入れを担当。
稲倉のおじさん、おばさん 和邇家の賄を担当。
香納美(ノカ) 20歳。稲倉夫妻の子。大学生。彪のグループメンバー。
柘植くん 香納美の戀人。彪のグループメンバー。
神上彪 詩真音から「にいさん」と呼ばれている。
桁木紡羽 彪のグループメンバー。伝説の武道家の娘。
烏栖埜美箏 彪のグループメンバー。扮装の名人。