「和華子さんよ。和華子さんがセルフタイマーをしかけて撮ってくださったのよ」

「この方が─小鳥井和華子さん」

紀理子さんがフルネームで反復した。かの女は和華子さんの名前を充分頭に刷り込んでいるような感じだった。

「そう。さっき見せてくれた清躬くん宛の葉書きの差出人のひと。あ、あのコピー、もう一度出してくれない?」

「はい」

紀理子さんはかばんからもう一度その紙切れを出して、橘子にわたした。

「こんなにも綺麗な方、お目にかかったことありません。眼をつむっていらっしゃっても、引き込まれますね。本当にこんなにまで綺麗な方がいらっしゃるんですね」

「そうでしょ? 子供の眼から見ても、本当に綺麗で見惚れちゃってたもの」

そう言いながら、橘子は昔のことをおもいだしていた。和華子さんから絵葉書を貰ったというので、お互いに報告しあった。本文の内容はほぼおなじだった。

それでよかった。和華子さんは二人に公平だったのだ。

ふと気がつくと、紀理子さんはじっと眼を閉じていた。

それからゆっくりうなづくような仕種をした。そのうなづきがどういう意味なのか、橘子にはわからなかった。しばらくして、小さく声の出ない溜息をついて言った。

「清躬さんは本当にこんなに綺麗な女性と出会われていたんですね」