僕はすぐに、その家のインターフォンを押した。留守なのか誰も出てこない。横扉式の玄関前の石階段に三毛猫がノビノビと寝転んでいた。

猫は僕に気がついて頭だけこちらに向けた。人間ではありえない方向に首が曲がっている。辛くないのだろうか。

「家に人いる?」

ダメ元で猫に話しかけていた。あの枝が欲しかった。

猫は驚くでもなく、かったるそうに半回転して、テトテトと庭の方へ歩いて家の角を曲がって行ってしまった。

僕は日を改めることにして、停めていた自転車のスタンドを上げると、猫が待て待てと言わんばかりにテケテケ歩いて来て、僕の脚に体を擦りつけてきた。

「ほれ、ポンズ。エサは縁側でって言ってるだろ」

今度は猫を追いかけるように、グレーのシャツの首元が汗で更に濃いグレーになった五十代前半ぐらいのおじさんが小走りで寄って来た。どうやらこの三毛猫はポンズというらしい。