街なかの地下駐車場に車を停め、賑やかな人通りの地上へ出た。高いビルが立ち並び、幅の広い歩道には大きな街路樹が立ち並んでいた。街路樹に生い茂る葉の緑と夏の青空のコントラストがきれいだった。その下を人混みのなか二人並んで歩く。いいものだと感じた。行き交う多くの人々は皆楽しそうでしあわせそうに見えた。自分もそんな人たちの一人になっていた。
並んで歩く彼女を見て、背が思ったより高くないなと感じた。
「身長いくつある?」
「一六〇ないくらいかな、いくつあるん?」
「一七五くらいかな」
「そうなん? もっとあるかと思った」
「高く見える?」
「うん、見えるわ」
私は嬉しくて笑うと彼女も笑った。
彼女は口紅を買いたいからと言い、一緒に百貨店へ入った。お盆休みだからか百貨店のなかも多くの人で賑わっていた。
彼女に連れられて化粧品店へ向かった。化粧品の置いてあるフロアに着くと、少しばかり緊張した自分がいた。女性の口紅を買うのに付き合うのは初めてだった。「彼氏の特権」みたいな気がしていただけに、自分のことを認めてもらえているようで、何だか嬉しかった。
口紅のコーナーに進むと、たくさんの種類、色の口紅がずらりと並んでいた。
「どんなのを探してるの?」
「このメーカーのこんな感じの色がいいんやけど」
彼女は口紅を手に取り見せてくれた。それは淡いピンク色で、派手過ぎないいい感じの色だった。思わず彼女の唇に目がいった。
「何番やったかなぁ」
「番号があるの?」
「うん、あるんよ、たしか……あった! これやわ!」
嬉しそうに見つけた番号の口紅を見せてくれた。
「いい色、似合いそう」
私が笑顔で言うと、彼女は笑いながら肩を軽く当ててきた。何とも言えない嬉しさが込みあげた。
その口紅を購入すると、彼女は撮った写真を入れるためのフレームが見たいと言い、置いてあるフロアを探した。何度もエスカレーターに乗り上階へと向かった。エスカレーターでも隣同士に並んでいてくれることが、何とも嬉しかった。
フレームの置いてあるフロアに着くと、そこにはいろいろな素材、サイズのフレームがたくさん飾られていた。私は毎年描いていたあの菜の花畑の絵も、こうしたフレームに入れて飾ったら、下手でもいい感じに見えるのかもと思いながら見ていた。
彼女はフレームの値段を見ながら、
「これは高いわ」
そう言いながら品定めしていた。口紅を探しているときも同じで、意外と節約家なのだと思い、自分と似ている部分を見つけたみたいで嬉しかった。何気ないことや些細なことが、彼女といると嬉しくて楽しかった。
私は彼女にフレームを買ってあげたくなり、
「フレームいいのあったらプレゼントするよ」
そう言うと、彼女は少し戸惑った様子で、
「えー、いいよわるいで。大丈夫、経費で落とすから」
「そっかぁ、わかった」
私は少し残念な気持ちになった。
そんな私の様子を見て彼女は、
「ありがと」
そう笑顔で言ってくれた。彼女はフレームはもう少し考えるわと、結局買わなかった。