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ブラック

その物体がどうして私の部屋にあったのかはいまだに分からない。気付いたときにはパソコンや、読みかけの雑誌や、CDケースや、ボールペンや、煙草の吸い殻がいっぱいたまった灰皿などで散らかった机の上にあった。

日頃から整理整頓を心掛けていればもっと早く見つけられたかもしれない。なんて今さら言っても遅いんだけどね。だいたい人生なんてそんなもんだ。とんでもなく重要なことが気付かないうちにそっと始まっているんだ。そしていつだって気付いたときにはもう手遅れなんだ。

それは直径一センチメートルほどの大きさの球形で、重さはパチンコ玉くらい。でもパチンコ玉と違うのはまずその色であった。これが一言では言えないような色なのだ。いわゆる黒なのだがとても深みがある。吸い込まれそうに深い黒。机の上にそれを見つけたときは、まるで船の上から深い海を覗き込んでいるような気分になった。じっと見つめていたら、吸い込まれそうで思わず目をそむけてしまったほどだ。

これはいったい何だろう。宝石だろうか。たしか黒真珠なるものをテレビショッピングで見たことがあるが、そういうものだろうか。しかし金目のものに縁のない私は宝石にはとんと疎い。それこそ新しいパチンコ玉だろうか。もしそうなら私もやってみたいものだ。

大当たりを出したらこれが山のように出てくるなんて……いややめた。そんな想像をしただけで何故だか恐ろしくなってきた。想像しただけでそんな気分になること自体が不思議だ。もしや呪いでもかかっているのだろうか。先刻からの嫌な気分は呪いのせいなのだろうか。もしそうだとしたらやっかいなものを見つけてしまったわけだ。

しかしいったい全体どうして私の部屋にあるのだろう?

どうして私が呪われなければならない?

私が何をしたっていうんだ。私は真面目とは言えないまでも、どこにでもいる普通の大学生だと思っている。他人様に恨みを買うようなことは誓って、ないと言える。

そうとも、これはきっと誰か他の人のものに違いない。私の部屋に来たやつが落としたか、わざと置いておいたのだ。最近私の部屋に来たやつは一人しかいない。それは大学の同級生のKだ。あいつならやりかねない。いいやつなんだがしばしば冗談が過ぎて手におえなくなる。女癖も悪いので呪われる理由にも事欠かないだろう。私はさっそくKを電話で呼び出した。私と同じように授業をさぼってアパートでごろごろしていたKがやってくるのにそれほど長い時間はかからなかった。