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【ハローワーク】
筆記試験と運転技能試験の結果が数日後伝えられ、合格したとの連絡があった。
ハローワークと比べると何とあっさりと決まるんだろうと、少し拍子抜けしたが、簡単に採用されたのには理由があった。勤務時間が中抜けの為当然収入が少ない。
一家を養っていくだけの収入には程遠くそのために若い人が集まらないのだ。六十歳を過ぎた年代だと子供も手離れし、生活もさほど困窮していないので採用しやすいのだろう。
勤務地も自宅から自転車で十分、勤務時間も朝八時から十時半までと、午後四時から六時まで。ほかの時間は自由時間だが当然収入にはならない。
しかし、女房の顔色を伺いながら過ごすより、多少は時間潰しになるか、とチャレンジすることにした。初めての出勤日、施設の責任者である所長への挨拶を終え、運転士のミーティングに参加した。
このような運転の場合、運転する人のことを、運転手ではなく、バス、タクシーと同様に運転士と呼ぶらしい。人の命を預かる前提での呼称のようだ。いずれにしてもこれから一緒に働くみんなへ挨拶を終えて初日は始まった。
「今日からお世話になります斉藤です。よろしくお願いします」
仲間となる三人は、
「こちらこそよろしく」
と笑顔で迎え入れてくれた。よく見ると俺より年上のようだ。やはり若い人はいない。
「斉藤さんは歳いくつなの?」
とチョイ悪そうなおやじの島さんに声を掛けられた。
「はい、六十一歳になります」
「そうなんだ、若いねー」
還暦を過ぎているのに若いと言われると違和感を覚えた。島さんはおいくつなんですか? と尋ねると、
「今年七十歳になるよ、ほかの連中も同じくらいの歳だ」
と告げられた。おいおい、確かに七十歳に比べれば俺は若いが、その歳で運転して大丈夫かとちょっと驚いた。最近よく聞く運転操作の事故が七十歳近い人に多いからだ。
いずれにしても初日はデイサービス利用者の自宅と送迎ルートを覚えることとなった。教官役はこれも七十五歳の矢作さん。よく聞いてみると社員ではなさそうだ。