それを見て織田は、
「本多先生、中本先生どうです。面白いと思いませんか? 僕は想像するだけで痛快ですよ」
と、興奮を隠せない。
本多が冷静に、「でも、織田さん、うまくいっても、いかなくても全財産無くなりますよ」
「財産、そんなものどうでもいい、どうせ死んでしまえばあの世には持っていけないからね。永遠の命と無限の宇宙に出かけることができるなら、何が起きても構わない。途中で命尽きても本望だね」
この宴会が開かれる前に、堀内は織田から、宇宙冒険旅行計画の話をまとめておくようにと根回しを受けていた。
会場は6人の熱気に包まれ、バイオリンの音色は誰の耳にも入っていない。
堀内が計画の内容を話し出した。
「皆さんこんな内容でどう思われますか? 宇宙に行くのはiPS細胞で再生した自分の分身です。宇宙船は私が設計しその船で何万年もかけて宇宙の涯まで出かけます。行先は星野さんが決め、生命と健康は本多さんが担当し、再生は中本さんが行なう。運航するコンピューターは伊藤さんが担当し、そして資金と全体のマネージメントは織田さんにお願いするで、どうでしょうか?」
会場は静寂に包まれた。
桜の花びらが地面に落ちる音が聞こえるほどである。
人類が初めて行なうミッションは、こんなパーティーの席で簡単に決められた。
この5人の天才たちは、織田から今日の全快祝いの席に招きを受けたときから、どうもこんな話になるのではないかとうっすら感じてはいたが、計画だけでも5、6年はかかるし、宇宙船を作るのも10年はかかるに決まっている。自分の命のあるうちに行けるとは考えてもいなかった。
ここまで進んでしまうとはの思いである。
各人がそれぞれの専門分野の意見を述べたのも、織田の並外れた気遣いが各人を無意識の内に動かしていたのである。
6人の主人、資産家の織田、ロケット研究者の堀内、コンピューター研究者の伊藤、脳外科医の本多、iPS細胞研究者の中本、天文学者の星野、この6人の天才が一つの席に着き、目指すは宇宙の涯に自分の分身を送り届けるという、何とも壮大なロマンの始まりの瞬間である。