俳句・短歌 短歌 自由律 2021.03.20 句集「曼珠沙華」より三句 句集 曼珠沙華 【最終回】 中津 篤明 「冬花火 亡び 行くもの 美しく」 儚く妖しくきらめく生と死、その刹那を自由律で詠う。 みずみずしさと退廃をあわせ持つ、自由律で生み出される188句。 86歳の著者が人生の集大成として編んだ渾身の俳句集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 母消えて 晩夏 火となり 海となる 悲母にして 石積む 石の 命かな 遍歴の 母の 悲しみ 桜魚
小説 『魂業石』 【新連載】 内海 七綺 沼のような目でこちらを覗くおじさん…通り過ぎようとしたら、ランドセルにかけた給食袋を引っ張られ、後ろから口を塞がれた。 茜色の気配が透明な青を少しずつ蝕む帰り道だった。背の高いブロック塀に囲まれた脇道の暗く湿った闇から、男がじっとこちらを覗いている。瞬き一つしない、暗い沼のような目。変なおじさんだ、と雪子は思った。姦(かしま)しく笑っている亜弓(あゆみ)たちは男にまったく気づいていない。そのまま一緒に通り過ぎようとしたら、ランドセルにかけた給食袋をつかんで引っ張られ、後ろから口を塞がれた。叫ぶ暇もなかった。亜弓た…
小説 『揺れ動く女の「打算の行方」[人気連載ピックアップ]』 【新連載】 松村 勝正 自由が丘駅の正面口改札を出た小さなロータリーにいた。半年ぶりの再会に心躍り、約束の時間よりかなり早く着いてしまったみたい… 美代子は浮き浮きした気分で東急東横線の自由が丘駅の正面口改札を出た小さなロータリーにいた。今日は半年振りに親友の花帆と会う。約束の時間よりかなり早く着いてしまった。花帆の実家がある自由が丘は、大学生の頃二人のたまり場になっていた。時計を見ると十一時二十分を指していた。夏の陽ざしはこの時間になると太陽がほぼ真上に来るから日焼け防止のためにいつもバッグに日傘を入れている。美代子はバッグから傘を取り出…