俳句・短歌 短歌 自由律 2021.03.20 句集「曼珠沙華」より三句 句集 曼珠沙華 【最終回】 中津 篤明 「冬花火 亡び 行くもの 美しく」 儚く妖しくきらめく生と死、その刹那を自由律で詠う。 みずみずしさと退廃をあわせ持つ、自由律で生み出される188句。 86歳の著者が人生の集大成として編んだ渾身の俳句集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 母消えて 晩夏 火となり 海となる 悲母にして 石積む 石の 命かな 遍歴の 母の 悲しみ 桜魚
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『29歳、右折の週』 【第4回】 言田 みさこ 淫乱な女は14、15歳で既に男を錯乱させる光を持つと言う。15歳の理緒子に対して、7つ上の兄は「男の目」になっていた。 「せっかくの誕生日なんだから、そうね、あさみの未来でも占ってあげようかな。さて ……と。じゃーね、あさみは生涯に何人、子供を産むか」手の中からカードを一枚取り出し、中央に置いて表に返した。ダイヤの7が出た。皆、明らかにげんなりした表情に変わった。つまんないこと始めたもんだ、こんな単純な占いなんか誰が面白がるか、と。ここでも理緒子の才能を見ることになるとは誰も思わなかった。「7人?」理緒子がカード…