不具合
「今までの木彫りのブローチとかって休み時間だけで三日もしないで完成させてたのに、なんで城間さんのブローチは作れないんだよ」
「作れないと言うか、作った作品を喜んでくれるか不安で」
「そんなの仕方がねぇじゃん。俺だってこの3Dフィギュア自信作だし評判もいい感じだけど、実際に採点して評価つけるのは先生だし、良い反応がもらえるかわからないし、不安だぜ? 城間さんが気に入らないって言ったら返金対応でもしてやれよ。優は優しいから身勝手なキャンセルだって引き受けちまう予定なんだろ?」
こんなに上手に3Dフィギュアを作って自分でも自信を持ってるのに、評価がもらえるか気にしている不安もあったなんて、健ちゃんの探究心は凄いな。
「なぁ、ついでにガラス工芸の作品ギャラリーも見に行こうぜ。城間さんの作品見れば好きな系統とかわかるかもしれねぇじゃん」
城間さんの作品。凄く見てみたい。
僕らは隣のガラス工芸学科の展示室へ移動した。
3Dフィギュア展示室よりも教室が広かった。見物人数もあっちの教室には十一人しかいなかったのに、この教室には三十四人もいる。それなのに、こっちの教室の方が静かだった。
長机の上に四作品ずつ作品に見合ったテーブルクロスが敷いてあり、その一つ一つの上に手のひらサイズのものから、親指サイズのガラス細工と作品のタイトルとネームプレートが置いてあった。
健ちゃんの二歩後ろを歩きながら他の作品にも目をやった。脳が勝手に記憶していくのを感じた。
「城間さんの作品、城間さんの作品、えーと、城間さんの……お。これじゃねぇ?」
「どれ?」
見た瞬間、不思議な錯覚に襲われた。
小さな海の波を切り取った丸みのある分厚い作品だった。一番下の層には海の中の砂に埋まった半分だけ見えている貝殻があり、二層目からは太陽の光に照らされ乱反射するような波。まるで海を持ち帰って来たみたいだった。
他の人は鳥や花を作っている中で、彼女だけが硝子で風景を切り取った作品を展示している。きっと彼女も芸術家として選ばれていく人間になるのだと確信した。
「すげぇな城間さん。どうやって作ってんだろうな。ガラス学科レベルたけぇな」
「うん」
写真撮影と触るのは禁止だけど、思わず触れたくなる手のひらの海。
僕はなんとなく彼女の作ったこのガラス細工のように、透き通るようなウィスパーの声を思い出していた。
手先が器用だとか作るのが好きだとかそういうのが気持ちとして根底にあっても、センスというモノはその人の魂そのものだ。
こんな凄い作品を作れる人に、僕はちゃんと自分の作品を渡せるのだろうか。
「上村君」