私はなかば意識が薄れてきたが…

それにもかかわらず、やっと廊下の奥まったところにある部屋のドアを見つけたとき、ついに私は正気に戻ったのである。

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それがどんな部屋なのか想像する余裕はなかったが、最後の部屋で彼女に会えると私は確信した。そっとドアを押してみた。

初め部屋の中は暗くてよく見通すことはできなかった。

そのまま部屋の中へ入り、よく目を凝らして見ると、中央で何かが光り始めたのである。

それはテーブルの上で今までまったく見たことのない、あたかもいのちの光が宿っているかのような、瑠璃色の小さな花がいま正に咲こうとして次第に生き生きと輝きはじめた。

しばらくしてそれが極限に達したとき、そのまま全体が一気に稲妻のように強烈な閃光を放った次の瞬間、すべてが闇となり、幻のように消えてしまった。その一瞬を境にして、私は死のような静かな無の世界の中で、自分の全ての感覚が麻痺し、呆然と立ちすくんでしまったのである。

しばらくの間、どこにいたのかも記憶がよみがえらないまま、ついに我に返ったとき、辺りには淡い紅色の野ばらが一面に咲き誇っていた。

そして後ろを振り返ると館はすでに跡形もなく消えて、赤々と燃えるような夕陽が斜めに射して、ただ鬱蒼とした木々が黒っぽい塊となって逆光の中に映えていた。

その幻想的な美しい光景を見ているうちに、不意に母の面影が微かに私の頭の中をよぎった。

そしてしだいに心は唯、家路を急ぐことだけにとらわれ始めた。

そしてどのくらい歩いただろうか。気が付くと、すみれ色に染まった空の下にはすでに暗闇が足元に迫っていた。

しかも歩いても、歩いてもあの懐かしい滝の音は聞こえてこない。そして気持ちばかりがどんどん焦ってくるなかで、突然、私は長い夢からさめたのである。

そしてまもなく、私は子供の頃天狗岩用水の中で起きた痛ましい事故のことを思いだしたのである。