「うん。わかるよ。娘さんはママと一緒にいるの?」
「ああ。でも娘とは結構、会ってるぜ」
「そっかぁ」
「娘ができる前なんてよぉ、俺には何もなかったんだ」。
娘の存在に支えられ、ようやく掴みかけている幸せ。しかし、その一方で、自分の夢を追いかけ、好きなことばかりしているBaby's daddy(子どものパパ)に愛想を尽かした彼女の姿が透けて見える。
子どもを育てるために、自分の時間も体力も犠牲にしていかなければならないのは、やはり母親だけなのか。彼女とBの間に存在する、まだ小さく、若い命。たくさんの愛情をもらいながら、明るく、健やかに生きていってほしい。
私はふと思った。いつか2人の娘もギャングスタとしてタフにストリートを生きる日がやって来るのだろうか。
レイシスト
“I’m not a racist.(俺は人種差別主義者じゃねーよ。)”
Bの横にいた男性が唐突に言った。突拍子もない一言に私は驚いた。彼はどんな答えを求めているのか。
“But,you look... you can tell.(でも、どう見ても……。)”
私が冗談でそう返すと、彼はただ黙ってニヤリと笑った。
彼らの喋り方、仕草や態度、ファッション、どれをとっても、
“I’m from the hood.(俺はHood出身だ)”
と主張しているようなものである。ヨソ者を寄せ付けないtoo hood(あまりにもHood)な雰囲気を醸し出している。だが、私はこのとき、この自称レイシストではない男の嫌みを特に気に留めることもなかった。
気が付くと、彼らはWeedを吸い始めていた。2、3回ふかし、煙を肺まで深く吸い込む。Bは私のアクセサリ一つひとつに興味を示し、「これ本物?」と尋ねた。
私が答える前に、自称レイシストではない彼が口を挟む。
「その指輪はホワイトゴールド? それともプラチナか?」