ボクが出発しようとすると、
「ねぇ、ボク。向こうに見える青い屋根の家の男の子、知ってる? あの子、乱暴なんでしょ。誰だったか言ってたのよ〜」
すると、輪の中の人達が
「まぁ! そうなの。嫌(いや)だわ。怖いわねぇ〜」
と口を揃(そろ)えて言いました。ボクは、なんだかどんよりとした気分になりました。そんな気持ちで歩くボクは、ふっと思います。
「よし。ボク、ちゃんと見てこよう!」
しばらく歩くと、青い屋根の家に到着です。
「きれいな庭だなぁ〜」
ボクが見惚(と)れていると、家の中からあの男の子が出てきました。小さなボクは、少しドキッとしましたが、
「おはよ。何をしているの?」
笑顔で男の子に話しかけてみます。男の子は、チラッとこちらを見て、「おはよ〜」と小さな声で言いました。そして庭の花に水をあげ始めます。
「朝から偉(えら)いな〜」
ボクが憧(あこが)れの眼差(まなざ)しで見ていると、ガラガラとドアが開き、お父さんがやってきました。
「早く学校へ行くんだ! この、のろま!」
びっくりする言葉でしたが、男の子は慣れた様子で家の中に戻ろうとしています。その時、お父さんがゴツンと男の子の頭を叩(たた)きました。
小さなボクは、びっくりしました。そして、男の子が乱暴になってしまう理由が分かる気がしたのです。乱暴な子と噂(うわさ)されていた男の子は、本当は花のことを大切に思うことのできる優しい子でした。花に毎日水をあげることのできるしっかりとした子でした。
それなのに、のろま! と頭ごなしに言われ叩かれる男の子。悔しい気持ち、悲しい気持ちを、心の中に隠し持っていたに違いありません。