「でも凄いな……官僚って調べてみたけど、将来は警視総監か警察庁長官か?」

それを聞いて賢一は笑った。

「そんな事ないよ……お前、日本中に警察官が何人居ると思っているんだ? 警視庁だけで四万七千人弱だぞ、その中でのトップになれる訳ないだろ? それこそ、総理大臣になるより難しいかもしれないぞ」

「そうなのか?」

「いずれ、出世レースの中で脱落していくんだよ……そして脱落したら、どこかに天下るしか道は無い……確約は無いからな、厳しい世界だよ……脱落したら、ただの働きアリさ……頂点にならないと、女王アリにならないとな……」

そう呟く賢一を見て、禅はもう一度聞いた。

「本当に迷惑じゃないのか?」

「だから、何がだよ」

「つまり……俺みたいな前科者と付き合っていては出世に……」

「お前、何言っているんだ? 忘れたい訳じゃないだろ、俺たちは兄弟以上だって事を?」

「………」

黙ったまま下を向いている禅に賢一は言った。

「まあ、それで出世できないなら、こっちから辞めてやるよ!」

それを聞いて禅は顔を上げた。

「それに俺は新米の警察官だぜ、ただの下端だ、出世街道に居る訳でもない」

そう言うと賢一は笑った。しかし、それは嘘だった。賢一は正真正銘キャリアで官僚だった。これからの働き次第では警察の世界で、頂点に昇り詰める可能性が十分あった。その嘘は、禅に対しての優しさだった。そして今まで通りの付き合いでいるための……。

「賢一……」