「賢一、本当にありがとう……」
「じゃあ、決まりだな!」
そう言って笑う賢一を見て、禅は感謝の気持ちで一杯だった。その笑顔は、子供の頃一緒に遊んでいた時の笑顔だった。その笑顔は、無邪気に遊んでいたあの頃と何も変わっていなかった。ただがむしゃらに走り続けてきた禅にとって、その笑顔は安らぎを与えてくれた。嬉しかった……ただ嬉しかった……禅は思わず下を向き、また涙を流した。
賢一は、警視庁の一室に呼ばれた。
ドアをノックし、中に入ると深々とお辞儀をした。
「失礼します」
そして直ると敬礼をした。
「刑事部長、お呼びでしょうか?」
刑事部長は、椅子に座ったまま、窓の外を眺めていた。
「キミが警視庁に戻ってから一年か……」
「はい」
刑事部長は、椅子を回すと賢一を見つめた。
「どうだね? 県警とは違うかね?」
「そうですね……多少の違いはありますが、やる事は同じですから」
それを聞いて、刑事部長は苦笑した。
「キミらしい答えだ」
警視庁本部と県警では明らかに仕事量やスピード感が違う。しかし、それを淡々と答えた賢一に思わず笑わずにはいられなかったからだ。
「県警本部長と私は同期なのは知っているね?」
「もちろんです」
「県警本部長から聞いた通りの働きだよ」
「いえいえ、買いかぶりすぎです。全ては、刑事部長のお力添えがあってこそですから」
刑事部長は、それを聞いて、また苦笑した。
賢一は、一年前に県警の刑事課から、警視庁本部の捜査第二課に配属されていた。