三十分程で終点鞍馬駅に到着。鞍馬山は、京都有数のパワースポットだ。遅ればせながらの参拝に、駆けつけ三杯。キンキンに冷えた淡麗喉越しの霊気をグィーグィッと胸一杯に呷あおる。クーッ、効くなぁ。
本殿まで、九十九折という曲がりくねった参道があるが、体力温存のため、ケーブルカーを利用する。これがなんと寺営。といっても、山門駅で降車してから、本殿までは坂や石段が延々と続いているのだが。
木の根道と呼ばれる一帯は、源義経が兵法の修行をした場所と伝えられている。林立する巨大な杉の根が地表に張り巡らされ、あたかも無数の大蛇がのたうっている様で妖気を放つ。
この険阻な寺域で、深更から払暁まで、秘密の兵法修行に励んだ義経に思いを馳せる。天狗という人外の教官に鍛え抜かれれば、最強と謳われる米国特殊部隊グリーンベレー級の肉体を獲得したに違いない。
あのアクション・スターのジャッキー・チェンでさえ腰が引けるであろう「鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし」や「壇ノ浦の八艘飛び」の義経の離れ技もあながちフィクションではないように思える。少数精鋭による奇襲攻撃で敵に打撃を与え、友軍の活路を開くといった義経の得意とした戦法は、現代の特殊部隊の戦術に通じるものがあるのではないか。
「なんだ、そのなよなよした腰つきは、貴様は平家の奴らを滅ぼしたいのか、それとも抱かれたいのか」
「自分は滅ぼしたいであります」
「ならば、もっと死ぬ気で打ちかかってこい」
「イエッサー、教官殿」
みたいなやり取りが天狗との間であった……。はずだ。そんな妄想に耽りながら黙々と参道を登っていく。