里の長が考え込みながら、丘の長の持って来た焼き栗を広げると、丘の長とキナはそれを肴に酒を酌み交わし始めた。そして、自分たちの言葉で楽しそうに話し込んでいたかと思うと、そのうちに二人とも高いびきで寝込んでしまった。キナの幸せそうな寝顔を見て、ひさしぶりの丘の言葉と食べ物で、故郷に戻った気分なのかもしれない、と思った。これだけ近くても、やはり異郷に嫁いで暮らして来たのだ。

里の長は、二人に寝布を掛けてやった。

翌朝、長が隣の弟、ソニェの家に行くと、弟は既に丘の長の提案を知っていた。家の女どもが早朝からおしゃべりに来たかと思って舌打ちをしたが、そうではなかった。ユィリが話していたのだ。ユィリは、むろんアトウルから聞いたのだろうが、「あの人になら、どこへでも付いて行く」と言うユィリを、どこかで逢引きでもしたのかと、責める気にはならなかった。

ユィリは秋からずっとキナに付いて丘の言葉の勉強を続け、今ではかなり話せるようになっていたが、上達の一番の秘訣は、むしろ恋人との会話にあったのかもしれない。いささか驚いたことに、ソニェも娘に付いて東に行く気だった。

「兄上、これでも長の家系の男ですからね、村を分けるとなれば、然るべき者が率いた方が良いでしょう」

確かに、やるならば大きくやった方が良い。長と、東に向かう弟本人が二人で呼びかければ、より多くの者が志願するだろう。