ある日のこと、節子が里奈の家に電話してきた。
「あんたね~! 私のお金、取ったでしょ?」
「はっ? 取ってないわよ」
「タンスの引き出しに入れてあった百九十万が三十万くらいに減ってるんだよ」
「私じゃないわよ」
「あんたしか知らないはずだよ!」
「お兄さんじゃないの? お金欲しがってたでしょ?」
「違うよ。あの子はタンスの方には行かなかったし、タンスにお金隠したことも知らないからあの子じゃないよ」
「じゃあ、空き巣にでもやられたんじゃないの?」
「あんたじゃないの?」
「ちょっと、なんで私ばっかり悪者にするの? 北海道や四国に連れてったり何かあればみんな私がやってるのよ」
「じゃあ、うち来て! ちょっとタンスにお金があるかどうか見てよ!」
「わかった!」
節子は一人で寂しいので何かに付けて里奈を呼び出す。しかし今回は寂しいばかりではなさそうだ。それにしても里奈が節子の世話をして幸せに導こうとしているというのにどうしてわかってくれないのだろうか? しかも実の母親だというのに……。
「ここに百九十万入れといたよね。それがね、ほら!」
節子は引き出しの中の新聞の包みを開いて見せた。
「これしかないよ」
「へぇ~? 他の所に移動させたんじゃないの? ほら、この前も場所変えたでしょ?」
「そんなことはないよ、ここだよ」
里奈はそのお金を数えてみた。すると二十八万円しかない。それにしてもどうして百九十万円
が二十八万円になっているのだろうか? 首を傾げた。そして手あたり次第家の中を探してみた。
しかし、お金は出て来なかった。