ホースディアーだけのチケット
平成二十六年、節子が他界した。八十三歳だった。里奈はもうすぐ五十歳だ。三人兄妹の兄、妹は遺産を千五百万円ずつ。そして里奈は五百万円と不動産、とはいっても家は築五十五年もたっているので遺品整理をして家の中を空っぽにした後、お金をだして家を取り壊して土地だけで売るという頭だった。
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しかし、それをやると兄妹の中で一番貰いが多いはずが、何か自分が一番苦労した割に貰いはほとんど変わらない気がする。それでも里奈は通夜の対応、葬式の弔辞、その後の支払いやお返し、手続き、四十九日も墓の世話もすべてやった。
丁度その頃、夫の佑は仕事の最中に会社の上司に呼び出された。
「根本君、ちょっと話があるんだが……」
「はい課長。ご用ですか?」
「ここでは話しにくい。隣の部屋で話そう」
「わかりました」
佑は隣の部屋に移った。――移動でもあるのだろうか? それとも昇進? 佑は少しニヤけた顔で課長の話を聞いた。
「君は優秀な社員だ。申し分ない」
「いいえ、それ程でもないです」
「そこで、一つ君にお願いがあるんだが」
「何でございますか?」
「今、この会社はかなり危ない状況なんだ。君は何処へ行ってもやっていける優秀な人材だ。君ならリストラされてもここよりも給料のいい企業に就職出来る。保証するよ」
「あの、何がおっしゃりたいんですか?」
「つまり、君は……この会社を辞めてもらうということだよ」
「え~~~!! そんな」
「申しわけない。そうしてくれ」
「あの、どうして僕なんですか?」
「だから、君のような優秀な社員は何処へ行ってもやっていけるからだよ」
「それはおかしいですね。この会社に必要な人間を残して会社に貢献出来ない人間を切るのが筋ではないですか?」
「話はそれだけだ。退職金は出すから、今月いっぱいで辞めてくれ。次の会社を早く決めといた方がいいよ」
佑は腰が抜けた。しばらくは立ち直れず、塞ぎこんでしまった。あまり落ち込むことのない佑だったが、今回ばかりはショックで仕事など手に付かない。会社の人間も佑のあまりの落ち込みに気づかぬわけもなく、どう接したらよいかわからずにいた。
月が変わってもリストラされた佑は里奈には話せず、会社に行くわけにも行かず、車で出かけて山の目立たぬところであんぐりと口を開けたまま呆然と過ごした。昼になると里奈の作ったお弁当を食べ、その後はまた呆然とタバコを吸って思考停止。灰が膝の上に落ちて熱さで我に返る。畑や遠くに見える海を眺めながらこれからのことを考えた。
――俺はあの会社に骨を埋めるんじゃなかったのか? どこの会社へ行っても大丈夫? こんなおっさん、何処で使ってくれるんだよ? そして人には見せない涙を流しながら握りこぶしを作り、車の前方を強く五、六回叩いた。
「クッソ~!!」
自分が情けなく、上司には憎しみさえ感じた。
「何で俺なんだ!!」