ホースディアーだけのチケット
里奈の自宅は四人家族だったが、子供二人のうち一人は男の子。大学を出て千葉へ就職した。
もう一人は女の子、高校二年生。高卒で就職する予定だ。夫の佑は普通の会社員。里奈より二歳年上で社内恋愛で結婚した。
里奈は節子を家に引き取るように佑や子供に話してみたが、快く引き取ろうとはしない。それより何より節子が嫌がっていた。
「私はね、友達がいるんだよ。一人でも寂しくないよ。あんたのうちで世話になるよりここにいた方がよっぽど気楽でいいよ」
里奈は考えた。
――同居はしなくても、お母さんがお金持っているんだから生きているうちに幸せな思いをたくさんさせてあげよう。旅行に行ったり花見をしたり、寄席や劇や映画にも行こう。カラオケやスポーツやサークル、楽しいことをさせてあげよう。
そして里奈は節子と二人で北海道に行った。午前はパートでの仕事。午後から静岡空港から新千歳空港へ、帰りは「白鳥」で地底をくぐり新青森駅から東北新幹線「はやぶさ」に乗って帰って来た。あいにくの雨で五稜郭くらいしか見られなかったが、ジンギスカンに札幌ラーメン、夕張メロンを食べて帰りはウニとイクラとカニの三食丼を新青森駅で買ってはやぶさの中で食べた。
一泊二日。しかも初日の午前は仕事。一晩泊まっただけで二日目の夜はもう富士へ戻った。家は空けられないのだ。仕事も休まず金土で北海道旅行。家の用事を済ませて行き、帰って来たらまた家事をしたという里奈はかなりの変人だ。それでも節子は喜んで北海道のお土産を近所の人に配り、羨ましがられたりした。
それだけではない。四国、北陸、東京にも行った。ほとんど会社を休まずに自分で下調べをして行った。それを人は駄目出しするが、里奈は大満足。何の後悔もなかった。