香村刑事は、それらを食い入るように見ていた。その時点では、この吸い殻が重大な鍵を握っているものとは知らずに、沖田刑事は、ぼんやりと香村刑事を見ていた。その後の調べで、二宮啓子の死因は薬物ではなく、現場の状況を見て予想した通り、電気コードにて首を絞められ窒息したもので、死体の硬直などから、死亡時刻は、29日、午前3時前後と推定されるに至った。
殺しの第一発見者は少年Aだった。彼は、二階建てアパートの階段を駆け上がり、すぐに、女の部屋の異常さに気づいたとのことである。それは、午前5時30分頃、という。入口の戸が開け放たれていたため不審に思って、部屋の中を覗きこんだが、その時、女はすでに死んでいたのだそうである。
少年Aは真面目そうであったし、彼が語った内容は、女の死亡推定時刻からみても、つじつまがあう。だが、一応の疑いを持って、沖田刑事たちは秘かに調べてみた。
結果はシロだった。一方、被害者の二宮啓子について調査を進めると、彼女は、九州の熊本県立の高校を卒業し、名古屋の女子大学に入学したが、2年ほど前から、いろいろな男と関係を持っていた、と判明した。
関係を持ったと思われる男を英数字の記号で表したメモ帳が見つかった。客は、必ずしも近くではなく、比較的遠方からタクシーなどで遊びに来たらしい。しかし、こんな遊びごとについては、当然のことながら自分の職業なぞ、まともに語る者はいない。
したがって、特定の男をあげることはできなかった。予想していたとおり捜査は難航した。そんな中にあって、沖田刑事は、必ず事件を解決してやるぞ、という強い決意に燃えていた。
だが、捜査は一向に進展しなかった。沖田刑事は、香村刑事とともに捜査に当たっていたが、ちょっと気掛かりなことがあった。
それは、一緒に仕事をしている香村刑事のことである。どういう訳か、彼には元気がない、と思われるのだ。元気がないのは齢のせいだろうか。
自分も老いたが、香村も齢だなあ、と感ずる。彼はもうすぐ56歳になるのだ。やや縮れた髪はすっかり薄くなり、どうかすると頭の地肌の形がそのまま見えたりした。
元気がないというのは、やはり年齢のためだろうか。