「私、悲しい人ってわかるの。『浮浪雲』っていう漫画知ってる?」
高津はよくは知らないが、青年誌でジョージ秋山が連載していて、昔、渡哲也が主演してドラマ化された事くらいは知っていた。話を合わせたかったので、「ああ、知ってる」と話を進めた。華奈は、
「あの漫画『浮浪雲』みたく私、雨宿りしかさせてあげられないけど、おじさんを温めてあげたい」
高津は実は内容を知らないので、雨宿りの意味がわからなかった。そのうち、華奈は、少しだけ自分の身の上話をした。高津は親身になって話し相手になった。
「そういえば、何て名前だっけ。ああ、花ちゃんだ。そして、俺がおじさん。“花とおじさん”だ。アハハ」
結局“華奈”じゃなく“花”ちゃんという事になった。カナとハナで似ているから、まあ、いいかと華奈は思った。楽しい夜はさらに更けていった。
朝になった。高津は誰かに呼び起こされたような気がして目がさめた。
まだ寝ぼけていたがハッと気が付いた。あっ、花ちゃんだ。華奈が朝食を作っていた。
「何もないのねー。ファミリーマートで材料買ってきたの。どうぞ」