花とおじさん

医者の診断の結果、「これは心因性によるもので手術して完治するものではない。今度、発作が起こったら命の保証はできない」と言われた。愛する肉親を一度に失って一人ぼっちになった華奈。

そしてこの予期せぬ入院のため金もなくなってきた。この一連の不幸から人間不信に陥ったので友達も彼氏も失っていた。実家に帰る気力も薄れ、とぼとぼと街を歩いた。一人だとますます落ち込んでしまう。どこかへ飲みに行こう。華奈は駅前を目指した。

今まで素通りしていた通りの一角でにぎやかな笑い声が聞こえてきた。ここにしよう。なんだか楽しそう。元気になれるかも。そう思って“焼き鳥中ちゃん”という店ののれんをくぐった。

焼き鳥屋にしては小ぎれいなこの店は、ママと良美ちゃんという若い娘がきりもりしていた。そして常連客でにぎやかだ。その楽しい雰囲気に久々に楽しく酔えた。

美人で若くて明るい華奈はたちまち常連客に囲まれ注目の的になった。特に、ノムちゃんという鳶のおじさんから、「好きになってもいい?」などとダミ声をはり上げられ、高っちゃんというおじさんからもじろじろなめるように見つめられた。

今までなら、こういうおじさん達に囲まれるのは毛ぎらいしていた。特に汚い作業服の高っちゃんは嫌なはずだったが、なぜだか楽しかった。常連達はこの店の忘年会の話で盛り上がっていた。

高っちゃんというおじさんからしきりに忘年会に誘われた。華奈は実家に帰るため断わったが、酔っていくうち、このおじさんになぜか惹かれていった。