花とおじさん
「ああ寒い。それにしても松下由樹かわいかったな。もったいなかったな。まあ、電話かかってくるはずないよな」と独り言を言いながら帰った。6畳一間のアパートに入って、いつものように座いすにこしかけ一服した。
早く寝なければと考えていると、めったにかかってこない電話が鳴った。高津はもしやとは思ったが、こんな時間にもサラ金の取り立てだろうか、ああ嫌だなあと受話器を取ると、
「華奈でーす。今、花月園駅前のファミリーマートの所だけど、おじさんの家どこだかわからないから迎えに来て」
そう言われた。あの店で高津はずっとおじさんと呼ばれていた。願ってもない展開だ。
高津は、明日の仕事のことも忘れ、小踊りしながら大急ぎで坂を下った。華奈は店の時と同じく明るい口調で、
「つけて行ったんだけど見失っちゃった。今晩泊めてね」
高津はもう何が何だかわからない。もう夢見心地だった。部屋の中で華奈は話し始めた。