花とおじさん
華奈はその場に倒れ込んだ。苦しくて心臓が止まってしまいそうだ。なんとか携帯電話で119番した後は覚えていない。
華奈は、子供の頃から心臓が弱く、体育はほとんど見学していた。不整脈が激しいのだが、医者から心因性だと診断されていたので手術で治るものではなかった。しかし、地元の地方都市で小さな印刷会社を経営する両親の愛に囲まれて、一人娘の華奈は次第に健康を取り戻していった。
特に、バブル期に、この会社は不動産会社のチラシ・パンフ・DM等の印刷物の発注で絶頂期を迎えた。普段、忙しくて両親からあまりかまってもらえなかったが、たまにある休日や、誕生日・クリスマス等のイベントには、両親は華奈に至上の愛を注いだ。
その上、病弱なためか透きとおるような肌で美しい少女の華奈は、学校でも人気者だった。この裕福な家庭と将来を約束されたかのような美貌という2つの要素が華奈の心因性の種である不安というものをかき消した。心臓病はすっかり消え失せたかのように思われていた。
華奈は現在、成長して21才の大人の女性になっている。あこがれの東京で就職し、一人暮らしをしている。そこまではよかったが、この突然の心臓発作の原因が少し前から始まっていた。すでにバブルは崩壊し、地元の印刷会社は危機に瀕した。