第二部 教団~4
山手線で巣鴨から新宿までは七駅ある。巣鴨の村上家から、有梨と一緒に駅まで歩いた風間は、駅前に着いたときすでに後悔する気持ちになっていた。
電車は混んでいるだろうな。西に傾いた陽を見ながら、風間はコートの下で首をすくめた。
帰りにはもっと混んでいるだろう。風間は有梨の無邪気な横顔をチラッと見た。
日ごろはにかむ癖のある有梨は今日ははしゃいでいる。父親には余り構ってもらえない彼女は、風間にまとわりついた。
「おじさん、デパートで、お母さんとお父さんにもプレゼントを買おうね。わたしが選ぶから」
そんなことを言われると、いまさら引き返すわけにも行かない。だが、電車に乗り込んだ風間は、案外空いているのに驚いた。有梨の手を引くようにして急いで座席を見つけると、座ることさえ出来た。
後から乗り込んでくる人で、車内は急に混んでくる。ラッキーだったな、と風間は思った。ところが、電車が動き出してからしばらくして、異様な臭いに気が付いた。
すえたような、アルコールくさい臭いである。有梨も気が付いたのか風間を見上げて変な顔をしている。危険なら有梨を連れ出さなければ。とっさに風間はそう思った。
次の駅で理由はわかった。その辺り一帯の乗客が、逃げるように別の車両に乗り換えてしまったからである。
前に立っていた乗客がいなくなったとたんに風間と有梨の目に飛び込んできたのは、異様な老人であった。その老人はともかく汚かった。
汚いと言うだけではいい足りない。足に包帯をしているのだが、その包帯が緑色なのだ。