第二部 教団~4
風間は係わり合いになりたくないという気持ちが自分の心に巣食っていることを嫌と言うほど思い知らされて、ため息をついた。村上家から子供を預かってきた責任とか、教育的配慮などと言う弁解は、虚しいだけである。
「有梨ちゃん、ちょっと座ったままでいなさい」
風間は老人に近寄っていくと声をかけた。
「すみませんが、気になったもので」
われながら間の抜けた言い方だと思ったが、ほかに言葉を思いつかなかった。老人はドロンとした目を風間に向けた。意味がわからないようであった。
風間はもう一度その言葉を繰り返した。すると、老人は降りろと言われたと思ったのか、紙包みを抱えて、急に立ち上がろうとしてよろめいた。
風間が支えると、老人は立ち上がった。ワンカップが手から落ち、床の上にしみを作った。小柄な老人はぽかんと風間を見上げて何か言った。
「セツ……」
そういったように風間には聞こえた。風間は有梨を連れて次の駅で老人と降りた。ひとまず老人をベンチに座らせる。
座っていた人たちは風間が近づくと迷惑そうな顔になり無言で席を立った。師走の風は冷たい。すでにあたりは薄暗くなり始めている。
老人が死んだようにベンチに座ってしまうと、風間は携帯電話を取り出した。村上家に電話する。
「困ったなあ、でも、どうしようもないわね」
事情を話すのには骨が折れた。何度も聞き返されたあげく、大汗をかいて状況を説明してしまうと、風間は、申し訳ないが有梨ちゃんだけ一人で先に帰すから、駅まで迎えに来てくれといった。悦子は、このようなときには腹が据わっている。
「遅くなっても風間さんもきっと来るのよ。まさか九時まではかからないでしょう。いい、きっとよ。分かったわね」