「どうぞよろしくお願い申し上げます」
「まあ、こちらこそ。私どもには女の子しかいません。その娘には寺を継ぐ気持ちがまったくないので、嫁に出しました」
「……」
「気づいていると思いますが、この寺は敷地が広くて、維持することが大変なんです。寺への入り口には駐車場もあってね。無断で停める車も多いので、気を遣うんです。君に手伝ってもらえると本当にありがたいです」
挨拶を交わしてからほどなくして、板橋玄宗は慈雲寺に住むことになった。寺に住むようになってから数年後に、板橋は新井住職に、自分の要望について訊いた。
「新井さん、私はこちらでお世話になっていますが、仏教についての学問が不足しています。だから、京都のB大学で学びたいと思っています。B大学には全日制と通信制があります。通信制であっても卒業すれば、全日制とまったく同じ資格を取得できます。通信制へ行こうと考えています。いかがでしょうか?」
「それは結構なことです。私もここの住職ですが、小学校の教職で体操、社会などを教えています」
新井住職は快諾してくれた。これで板橋の希望は通った。