禅は気持ちを新たにし、新規開拓の為の営業に出た。
禅は、次の日から営業に出た。初めに、父の時代から付き合いのある会社に挨拶に出向いた。そして父が病気で倒れた事、自分が引き継いで社長になった事を伝えた。
「お父さんとは付き合いが長い、そしてキミの事も子供の頃から良く知っている。頑張って会社を立て直してくれ」
「社長、いろいろとすみません」
業績の悪化により、支払いを待ってもらっている会社もあったが、ほとんどの会社が、会社を引き継いだ禅に温かい言葉を掛けてくれた。
そして、もちろん禅が罪を犯した事を知っていたが、それに触れるものはいなかった。禅は感謝の気持ちで一杯だった。その感謝の気持ちは父に向けたものだった。
“父が長年培ってきたものがここにある”
そう思うと禅は気持ちを新たにし、新規開拓の為の営業に出た。禅はまるで修行僧のようだった。
何かに取り付かれたように、毎日毎日歩き続けた。その靴底は十日も歩くと、すり減り壊れた。