次に把握した間隔を、方眼紙一桝を百ミリとして写景に載せる。これが観測の基本となる。

これと並行して、観測のための大砲の各機材の設置の練習をする。まず砲対鏡である。「砲対鏡、設置」と復唱し、右膝を立てて折れ敷きをし、左側に背負った機材を置いて、中から三脚を出し、三本の足の前方の一本を体の中央に決め、あとの二本を開いて砲対鏡の位置を確定する。

次に機体を出して三脚の上に据え、捩子(ねじ)を締め、水泡の動きで前後左右の水平を確認した後、「砲対鏡、設置終わり」と報告して作業を完了する。撤収も逆の順番で、同様に行う。

幹部候補生百名は、五名ずつ二十組に分かれ、この設置撤収を連日競争で行わされるが、続けてビリになったりすると、営庭一周駆け足の罰則が待っている。この砲対鏡に始まって、測遠機、水平機など種々の機材について順番にその使用に関する訓練を続ける。またこれらの機材を背負っての乗馬訓練も行うが、測遠機など背丈より長いものを背負っての乗馬はひどく難しかった。

このような訓練には自分の馬の協力が極めて重要であるが、この頃には神風はすっかりなつき、杉井との呼吸もピッタリになっていた。指示どおりに上手にやった時は、杉井は神風の首筋を優しくなでてやり、神風も喜んで頭を二、三回縦に振った。幹部候補生訓練において、神風は、杉井の最良のパートナーとなっていた。