地球防衛隊は、1万光年も離れている星から帰還したとの報告に、にわかには信じがたい驚きである。

「ウラシマお帰りなさい、ずいぶんの長旅でしたね。ご苦労様でした」と、ごく在り来りの返信を打つのがやっとのことである。

地球防衛隊の面々はウラシマからの報告に4万年前の人類にこんな技術力があったとは意想外の驚きを抱いた。

ウラシマからの報告が続く。

「当船はもはや分解寸前であり、自立航行能力はわずかしかありません。メインコンピューターの作動時間も、あと1時間ほどしかありません。とりあえず出発してからの観測データと全飛行データを送ります」

ウラシマは人類がボイジャーを飛ばして以来太陽圏外に飛び出した初めての宇宙船であるので、ウラシマのコンピューターには飛行観測データを地球に発進するようにプログラムされていた。

今はウラシマが存続できるかどうかの分岐点であるにもかかわらず、ウラシマは観測データの送信を優先する宿命になっていたのである。

「本船の構造データは日本国国会図書館に送ってあります。本船を捕獲することはできるでしょうか。本船が自力で軌道を修正する能力はもはや残っていません。できることなら本船を是非捕獲していただきたい」

「ウラシマ、現在日本国はすでに存在しません。貴船のデータも4万年以上前のことであり、存在するかどうか確認できません」

ウラシマは4万年という歳月の流れを、帰還の嬉しさのために理解できないでいた。ウラシマの中にいる乙姫の脳裏には出発したときの思い出が巡っていたのである。

「ウラシマ、構造データを持っているならこちらに送信願います」

「了解、本船の構造データの送信を開始します」

ウラシマのメインコンピューター内の仮想人物乙姫はこの段階では出発した時点の人類がすでに消滅し、新たに第三世代の人類ニューホモサピエンスが地球の支配者になっていることに気付いていなかった。

人類はウラシマが出航後、何度も起きた破局的な自然環境の変化の中で進化を遂げていたのである。

しかし、人類が開発した科学技術や文化はその新たなホモサピエンスに引き継がれていた。

※本記事は2020年12月刊行の書籍『Uリターン』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。