禅は、毎日真面目に淡々と刑務作業をし、時間はあっという間に過ぎて行った。そして時は巡り、出所の日を迎えた。禅は自宅に帰ると、ベッドに寝ている父を見舞った。
「父さん、すまなかった……」
禅は涙を流した。それを見ていた父は、障害の残っている口で言葉を振り絞った。
「もう……いい……良く戻って……来た……」
父親はそう言うと、涙を流し、動く左手で目を覆った。それを見た禅は下を向くと、もう一度詫びた。
「本当に、すまない……」
そしてしばらく静寂が続いた。しばらくすると禅は父に、会社を立て直す決意を語り、父もそれにうなずいた。父の部屋を出ると、リビングにいる母と妹の所に向かった。
「母さん、咲……本当にすまなかった」
母親は涙を流した。
「もう終わった事はいいわ……お父さんの分まで頑張って……」
そう言うと涙を拭いた。それを見ていた妹の咲は、一緒に涙を流したが、何も語らなかった。家族に対する申し訳なさが、さらに会社を立て直す決意を固めさせた。
“必ず、家族に恩を返す!”
そして二人に深々と頭を下げるとリビングを出て行った。