それぞれの舟は、予め割り振られた方向に向かって散らばって行き、真ん中を進むアトウルの乗る舟で大きな旗が振られたのを合図に、今度は木や石を打ち鳴らしながら、浜に向かった。舟と舟の距離がある程度近づくと、アトウルは再び旗を振った。
するとそれぞれの舟は、紐を結びつけた大きな木片を海に浮かべ、向きを変えて今度は浜と平行に移動するのである。木片を次の舟が拾って紐を手繰り始めたら、木片を出した舟は紐につながった網を繰り出す。両端の船は、浜との間に網を張った。網の隙間を埋めるように舟が移動し、浜に向けた半円の輪が完成したら、あとはゆっくりと狭めていくと、網が保つか心配になるほどの魚やなにやらがたくさん獲れたのだった。
魚や烏賊の内臓を取りのぞき、天日に干すのは、浜に近く人数も多い里者の、こちらは女たちの仕事である。夕方には、浜に大きな篝火が焚かれ、干すのに向かない大きな魚や海老や蟹が焼かれて皆に振る舞われた。また水と海藻と魚を壷に入れ、篝火で熱した石を入れて煮る者もいる。
火の周りには、歌う者あり、踊る者あり、集まった者たちは思い思いに楽しむのだが、丘と里の若者同士で行われる競技もあり、里の長が年長者たちを伴って火の周りに加わるのは、むしろ喧嘩などおかしな騒ぎにならないように、との配慮からである。