「たしかにあんなのは、ケンカじゃねーよな」
クラスの男子たちが、口ぐちに言いはじめました。
「うん。ただのじゃれ合いだよ」
みんながニヤニヤわらいはじめたので、オニガワラ先生も、少し目じりをさげました。
「それにしてもおまえたち、ほっぺがトマトみたいになってるぞ?」
オニガワラ先生は、ヒロユキとムッチーのあたまを、ポンポンたたきました。
「四人とも、あせびっしょりじゃないか。さっさと、かおをあらってきなさい」
ろうかの水道で、ならんでかおをあらいながら、ヒロユキがつぶやきました。
「ぼく、あだ名をつけられたの、生まれてはじめて」
「それ、ユキチのことか?」
ムッチーは、おそるおそるたずねました。
「おまえがいやなら、もう言わない」
レオが、きっぱり言いました。
「いやぼく、ふくざわゆきち、すごくそんけいしてるんだ」
ヒロユキは、ポケットからめがねをとり出し、みんなにむかってかけてみせました。
「このめがね、すごくいい! なんだか、ふくざわゆきちになった気分…」
ヤマトは、ふとくびをかしげました。
「あれ? ふくざわゆきちって、めがねかけてたっけ?」
「かけてるに、きまってるだろ? 一万円さつ、見たことないのかよ」
レオが、いばって言いました。
「いや、かけてないよ」
こんどは、ムッチーが言いかえしました。
「かけてるって!」
「かけてないよ! レオの一万円さつは、きっとニセさつだよ」
ヤマトとヒロユキが、プッとふき出しました。
「こら、こら! いつまでさわいでいるんだい?」
ろうかのまどから、おそろしいオニガワラが、ぬっとあらわれました。
四人はあわてて、せきにつきました。