林は他のメンバーと縄文世界に貨幣を流通させるための方法を模索した。メンバーにはユヒトもいた。

彼は長老の許しを得て泊りがけで笹見平にきていた。貨幣について学びつつ、縄文人の代表として意見を出したりした。

ちなみに――笹見平の若者らがユヒトら縄文人に会う時は、タオルやハンカチを使ってマスクをしている。免疫の無い縄文人に現代の病を持ち込まないためである。

前に林ら三人が崖から突き落とされてイマイ村に運び込まれた際は、マスクは無かった。三人は村人と距離を置いたり、話す時に口を抑えたり気を付けたものだ。

その程度の気づかいで大丈夫か不安だったが、今なおイマイ村に奇病がはやる気配が無いところをみると、免疫の件は杞憂(きゆう)なのかもしれない。しかし、万が一を考えてマスクは継続している。口元にタオルを巻くだけだったマスクは改良を重ねられ、最新のものは随分使い勝手が良かった。

長方形の布の短い一辺の両端に紐輪をつくり、耳に掛ける。鳩尾(みぞおち)あたりまでさがるもう一方の短辺の両端をたくしあげ、首の後ろで結ぶ。こうすることで、加工しやすく、洗いやすく、しゃべる時にはためかない。木崎茜の考案である。ユヒトはこのマスクを気に入り、自分も好んで装着した。