東京のマンションに帰ってくると、待ち構えていたかのように警視庁の松岡刑事から電話がかかってきた。沙也香の在宅を確認すると、すぐ部屋を訪ねてきた。

「例の高槻さんの車の冷却水が抜かれていた件ですが、W大の駐車場で抜かれた可能性が高くなりました」

「大学の駐車場ですか。誰かがいたずらしたんでしょうか」

「そのことですがね、冷却水を抜くためにはボンネットを開けなければなりません。そのためには車のキーが必要ですから、どの車でもというわけにはいきません。いたずらだとすれば、そこが引っかかります。やはり計画的に行われたと考えるべきでしょう」

「つまり高槻教授の車が計画的に狙われた、ということですか。高槻教授は、車の施錠はしていたんでしょう」

「そのようです。ただし、高槻さんが車を止めていた駐車場は来客用の駐車場で、急な来客があったときは車を移動させる必要があります。

そのためにキーは講師控室のキーボックスに入れておくように義務づけられていました。ですからそのキーを使えば、誰でも車に入ることは可能でした。ただし、キーボックスのある部屋に入れる人は限られていますが」

「ではその限られた人の中に犯人がいるわけですね」

「常識的に考えればそうでしょう」

「いったい誰が、なんのためにやったのでしょうか」

「問題はそこです。考えられることは、高槻さんがあなたのところへ来るのを邪魔するのが目的だったのではないかということです。そこでうかがいたいのは、そういうことをしそうな人物に心当たりはありませんか、ということです。もちろん、これは誰にも漏らしたりはしませんので」