苦手なこと
「山川さん、今日の回診について行ってもいいですか?」
朝、回診の前に病棟でカルテをチェックしていると、神谷君が声をかけてきた。
「あれ、神谷君早いね」
神谷君は外科研修の間、主に手術見学や助手に入って手術の勉強をしていた。手術に入った患者さんを一緒に担当はしていたが、朝早くから診察してカルテを書いたり検査のオーダーや薬の処方までは研修医には求められていない。そのため、朝の回診時に病棟で神谷君を見ることはなかった。
「昨日、救急当直だったので、そのまま病棟に来ました」
「そういうことか。じゃあ一緒に回ろうか」
東国(とうごく)病院の救急当直は忙しい。おそらく昨日は一睡もできなかっただろう。東国病院では、研修医は働き方改革の影響で当直明けは強制的に休む制度になっているのが救いである。
「偉いね。当直明けはそのまま帰ってもいいのに」
「なかなか上の先生と一緒に患者さんを診る機会がなくて。先生方がどんなふうに術前術後の回診をしているのか見てみたくて。山川さんがいればお願いしやすいなと思っていたらビンゴでした」
「そっか。タイミングが合って良かった」
それにしても神谷君はいつも肝が座っている。