物怖じしない。僕が研修医だったら絶対に当直明けは上の先生に会うのが嫌で病棟に上がってきたりはしない。
「お腹の痛みはどうですか」
「だいぶマシになりました」
「今日のお昼から食事が始まりますので楽しみにしていてくださいね」
僕はいつも通り回診を行う。
「手術後なのにすぐにご飯を食べられるんですね」
「うん、採血やレントゲン、お腹の所見で、腸が動いている様子があれば少しずつ食事を始めていくんだ」
僕は最近学んだことをあたかも前から知っていたかのように答える。
「なるほど」
神谷君は熱心にメモを取っている。
「創の診察をしますね」
次の患者さんの創を診察する。わずかに赤く、透明の液体が出ているが、明らかな膿ではなかった。
「傷が少し痛みます」
「術後なのでしばらくは痛みがあると思いますが、少しずつ良くなっていきますので今は薬で痛みを抑えましょうね」
そう言ってガーゼで保護しておいた。
「創感染が起こったら創を開いてドレナージするんだけど、あのくらいなら、たぶん術後の経過で問題ないと思う」
僕は神谷君に解説する。これも最近荒木先生から学んだばかりの知識である。こうして朝の回診を終了した。
いつも1人で回っているところを2人で回るのは楽しかった。神谷君も熱心についてきてくれたのでやりがいも感じられた。
「お疲れ様。良かったらまた一緒に回ろう」
「はい。勉強になりました。またよろしくお願いします」
神谷君はそう言うと帰って行った。
