実際、ある生徒に包丁を向けられたこともあります。しかしそのときの自分は、「厳しい指導で嫌われることも仕方ない。誰かがやらなきゃいけない役目だ。これも若い教師の仕事だ」と自分を納得させてきました。

そんな経験をしてきた中でふれたF君の本音。

「そうか。問題行動が多い子として見ていたこの子も苦しんでいたのか。みんな心の底ではよくなろうとしているんだ」とわかった途端、子どもを一面でしか見ることができていなかった自分を恥じました。そこから私は、F君が少しでも授業が楽しいと思ってもらえるように活躍の場面を考えたり、トラブルを起こしたときには、何がいけなかったのか、誰に迷惑をかけているか、自分を大切にするとはどういうことかを粘り強く話したりしていきました。

もちろん厳しく叱ることもしました。試行錯誤の日々でしたが、卒業を迎えるとき、彼からもらった手紙の内容には感動しました(短い文でしたが、内容は二人だけの秘密にさせてください)。あきらめずに関わり続けてよかったと思いました。

先日、中学校を卒業し、高校へ進学した彼から電話がありました。

「先生、俺進学することになったよ」

中学校のときの姿からは、誰も想像できなかったでしょう。

「すごい! お祝いだ! 飯行くぞ!」と言って彼とお寿司を食べに行きました。彼の将来を語る輝く顔は、忘れることができません。彼の立派に成長した姿を見て、改めて子どもの可能性は無限大だなと思ったのです。