16.ハンス・カロッサ
大学は、文学部を卒業している。文学研究は、嫌いではない、むしろ好きだ。米文学専攻だったが、ドイツ文学のハンス・カロッサが好きだ。正確に言うと、カロッサの、美しき惑ひの年という小説の邦題が、気に入り、それだけで、好きだと言っていた。そのうち、詩集を読んでみようと試みるが、あまり。しかし、カロッサの背景を読むと、詩の読み方が、解って来て、おもしろい。
そう、詩の読み方が少し解ったのは、カロッサでだった。カロッサは、ゲーテを崇めている。特に、最近読んだカロッサの詩には、感銘を受け、涙する程だった。カロッサは、医師であり、詩人であった。詩人であったところに医師になる。上流階級の視点は、否定できない。そのブルジョワならぬ上流の独特の感じるところの何か、というのに惹かれるのか、共感なのか、通ずるものがある。
「愛を信じる者らが ふしぎな梯子を編んだのだ、
いよいよ愛を信じつつ 君はあえて進み
最高のきざはしまで 昇りゆくがいい、
すると限りない魅力が君をとらえる!
先人たちが だれものぞきこんだことのない
深淵を前にして 君のたましいがもし
栄えある驚愕におののくならば—
とびこみたまえ! 君の落下は聖化され—
ただちにふるさとは君をつつんで いちめんにかがやきわたる。 (浄福への確信)」
【『世界の詩集17 カロッサ詩集』藤原定訳 昭和17年12月10日 昭和49年8月30日再版 角川書店】