「不正」であることを立証することは困難

そしてもう一つは、「不正」であることを立証することが困難である、ということもあるだろう。例えばグループ補助金では、虚偽の申告を防ぐために従前の所有を確認できる証拠書類を提出することになっていることは先に述べた。

また、経費の水増し等による過大請求を防ぐために、補助対象となる施設・設備の見積書を複数の業者からとり、そのうちの最も安価なものを選定することにしている。支払に関する資料の確認についても、領収書か銀行からの送金の控えのいずれかを提示することで可としていたが、県の告訴第一号となったS社の件があって、銀行送金の控えと領収書の双方の提出が求められることになった。

このように、書類の確認はもとより、実地調査での現物の確認など、「不正」防止策はかなり厳しく講じられてはいるのだが、「不正」を完全に防止するのは難しい。書類等を精査し何ら問題ないと判断され補助金が支出されたあとで、実は過大に支払っていたことが判明したということが、まったくないわけではない。

あるバス会社は、所有していたバス25台が津波で流出、破損したとして、補助金によりバス25台を購入した。ところが後で、そのうちの1台は津波の被害をうけておらず、老朽化のため廃車処分にしたものであったことが判明した。バス会社は被災したバスの台数を勘違いしていたとして、一台分の補助金を県に返却した

このような場合に、「補助金適正化法」の第29条、偽りその他不正の手段により補助等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する、を適用することはできない。

補助金は返還されているのだし、実際には意図的であったとしても、勘違いであったと言われれば偽りの申告であったと主張することは難しい。先に挙げたS社の例もそうだ。告訴された当初は、S社の社長は不正を認めていた。

ところが途中で、建設会社に誤送金だから金を返せと言ったのではなく、補助金をもらうための立替え資金を建設会社から借りたものであって、県をだます意図はなかった、と主張をかえた。それで県が告訴を取り下げたのかどうかはわからない。いくつかの理由があったと思うが、当初は充分立件できると意気込んでいた警察から取り下げを勧められたという話もきいた。