ある日のことであった。三島はVIPに在籍していた時に取引していた町工場へ営業で出かけた。案内された応接室で、町工場の営業担当者と面談した。その営業担当者は三島に対して、上から目線で横柄な言葉を発した。
面談が終わった。その折りに急激に豪雨が降ってきた。応接室から町工場の駐車場はずいぶん距離が離れていた。三島はちょっと雨傘を貸して下さい、と営業担当に願いでた。しかし、営業担当は「走って帰ってくれ!」と言って、傘を貸してくれなかった。これは三島にとって辛い記憶である。
5年後に三島がVIPに復帰した時、傘を貸してくれなかった営業担当者が挨拶に来た。三島にペコペコ頭を下げた。挨拶をする気分ではなかったが、三島は通常どおりの挨拶を交わした。
この町工場の営業担当とはまったく逆の態度を示す社長がいた。三島がVIPに在籍の時は、それほど親しくなかったが、三島がC社に出向した時には、とても親切に応対してくれた。三島は思う。これからは、その社長のような方と長いお付き合いをしたい。
三島はC社にてトイレの掃除もした。会社の床や屋根にペンキも塗った。C社の社長は飾り気がなく、ところどころに綻びがある背広を着ていた。プラスチック製の安い腕時計をはめていた。会社が休みの日でも、床や屋根にペンキを塗る作業をするような社長であった。
この社長の縁で、三島は会社を設立した。業務内容はコンピューター関連、経営コンサルタントであった。社長として思う存分に働いた。会社の経営は当初から利益をあげ、成功した。いずれにしても、三島は貴重な体験をした。「体験は財産」である。
久山部長はコンピューターサイエンスの会社を設立し、活躍することになった。ではVIPはその後、どうなったか? この問いに対する答えは明白だ。中島社長派が勢力を増したために、VIPは完全に崩壊し、やがて消滅してしまったのである。