長年の夢が叶い、宮廷に召しかかえられることとなった王暢(ワンチャン)。心残りは、漁門に残される石媽(シーマー)の行く末だった…。

(3)

「はい」

宮廷でお仕えする私以外の宦官も、みな、このような宮廷名をもっているのであるが、読者には、ひとりの人物に名前がいくつもあると混乱するであろうから、以後、私以外の宦官については、本名だけを記すことにする。「牛順廉(ニウシュンリエン)」曹端嬪(ツァオ-たんぴん)は、手を拍って、反応を待った。

「あれ……いないのかしら。牛順廉!」やはり、返事はない。

「困ったわねえ。誰か!」

「はい」

どこかで聞いたことのある女の声が、こたえた。部屋に入って来た女官を見て、私は目を瞠みはった。田閔(ティエンミン)の菜戸、楊金英(ヤンジンイン)ではないか!

「この者を、部屋に案内してあげなさい」

「かしこまりました」

驚きのいろを隠せずにいると、「お知り合いですか?」と、曹端嬪に、たずねられた。

「……いえ、とてもよく似た人を、識しっておったものですから」

まさか、この若い女官が宮城を抜け出して、湯麵(しるそば)をたべに来た、なんてことは言えない。