兄の友人たちとの合コンで、大学生の小林にまさかの恋をしてしまった高校生の香奈。手紙のやりとりを経て、ついに念願のデートの日を迎えた。歩くのが早い小林に「もう少しゆっくり歩いて!」と頼む香奈。そしてデートは続く。
「バッテンサン」とはどんな意味?
小林がゆっくり歩いてくれるようになったので、香奈はそっと小林と腕を組むようにした。小林は一瞬こちらを見たが、何も言わなかった。小林の腕は案外柔らかい。暑い日のせいだったろうか、香奈は腕のあたりがじんとしびれたような気がした。
道はどこまでも曲がりくねって続いている。
一本松坂から暗闇坂を通って、二人は麻布十番の方に抜けた。このあたりは、古い東京がほんの一寸だけ顔をのぞかせているところだ。坂の上り下りがきつい。
二人は道の角の喫茶店に入った。小林はブレンドを、香奈はレモンティーを注文した。いざ顔を付き合せてしまうと、案外しゃべる取っ掛かりがない。
「小林さんて何が好きなの」と香奈は聞いた。小林は笑い出した。感情を抑えるように、クックッと言うような笑い方をする。
「その質問はバッテンサンだな」と小林は言った。
「え、なに、バッテンサン?」香奈は上がり気味だった。
「僕のいとこの子供が保育園にいるんですよ。その子にこの間、バッテンサンだよって言われてね。僕がその子のおもちゃを間違えて壊しちゃったんですよ。そうしたら、そういわれたんだな。何でもその保育園では、軽くダメというときにバッテンサンというらしいですね。柔道で言えば教育的指導」