兄の友人たちとの合コンで、大学生の小林にまさかの恋をしてしまった高校生の香奈。手紙のやりとりを経て、ついに念願のデートの日を迎えた。喫茶店に入り、小林がテーブルの上に出した紙切れ。それを読んで香奈は絶句……。その理由とは?
「人をじっと見つめる癖があるが、勘違いしないこと」
村上が合コンの前に作った資料で、香奈たち四人の女の子のことが面白おかしく紹介してあった。例えば香奈と茜の欄にはこうある。
村上香奈
言わずとしれた俺の妹。高校二年生。一見考え深そうに見えるが、実は何も考えていない。人をじっと見つめる癖があるがうっかり勘違いしないこと。趣味はお菓子を食べることだ。本人は読書だというが信用してはいけない。人間関係には鈍感だから、多少手荒なことを言っても大丈夫だよ。
山下茜
香奈の友達。高校二年生。騒がしい女の子だが、毒はなさそうだ。当人はさびしがり屋の女の子だと自称しているらしい。趣味はおしゃべり。怖いことに人間観察が何より好きらしい。意外なことにぬいぐるみコレクター。特にクマのぬいぐるみには目がないそうだから、クマに似ているやつは気をつけたほうがいいぞ。
「ところで本当ですか?」
小林はそれだけ言ってにやりとした。顔を崩すと、目のあたりに愛嬌があってかわいい。
二人はそれから、赤坂を通って皇居のあたりまで歩いた。黙って歩くことも多かったが、小林がポツリポツリと話をすることもあった。小林は確かに余りしゃべらない男であった。もっとも、香奈はむしろ寡黙な方が男らしくてよいと思った。
自分のことを気に入ってくれたかどうか聞いて見たいような誘惑に何度も襲われたが、香奈は何も言わなかった。口に出したとたんに一切が飛んでいってしまうような気がしたからである。
じりじりとするような陽が西に傾くと、突然のように黒い雲が出てきて、夕方短い雷雨があった。