一日一合純米酒
料理の締めは、店主の打った出雲の釜揚げ蕎麦。
日本酒の世界は、思った以上に深く広いことがわかった。この店の料理に合わせて、酒と器を選ぶスタイルも、店主が考案したらしい。料理と日本酒、温度に器。無限に組み合わせはある。
器や温度によって日本酒の味が変わること、料理との相性があること。玲子は、全く知らなかった。
店主は、葉子の古い知り合いらしい。昔、東京で店を開いていたが、赤ん坊が生まれたのをきっかけに、この地に移り住んだという。
玲子は、改めて天狼星純米大吟醸の一升瓶を、手に取って見た。
「この瓶の肩に、秘伝と貼ってあるが、これが造り方なのか?」
瓶には、ラベルの他に『秘伝玉麹』と記してあった。
「そうです。麹作りは、酒造りで最も大事と言われる作業。その中で、とっても特殊な技術です。全国に千八百社ある酒蔵の中でも、烏丸酒造だけができる技。烏丸酒造では、純米大吟醸にだけ、秘伝で作った麹を使ってます」
さっき、六五郎も話していた。代々一子相伝、口伝のみで伝えられてきた技だ。
料理の締めは、店主の打った出雲の釜揚げ蕎麦。