それぞれの道
三年生の夏休み、禅はお盆休みで実家に帰省していた。バスケットから離れられない禅は練習をするため、バスケットボールを持って近所の公園に向かった。しばらく歩いていると、賢一にバッタリ会った。
「賢一じゃないか!」
「禅!」
「久しぶりだな」
「ああ、本当に」
禅は正月など、たびたび実家に帰っていたが、賢一に会うのは久しぶりだった。久しぶりに見た賢一は雰囲気が変わっていた。
「賢一、お前背が伸びたな」
「ああ、お前ほどじゃないけどな」
あの小柄な賢一が、一七〇センチ以上になっていた。禅も一八〇センチを優に超えていた。お互い成長するにつれ、顔から幼さが薄れていた。
「どこに行くんだ?」
「暑いからな、図書館で勉強しようと思って」
禅は思った。賢一の家は母親も病気がちで生活が苦しい。しかも、風の噂で、母親の病気があまり良くないと聞いた。エアコン代を節約したい賢一は図書館で勉強しているんだと。
「お前も頑張っているよな」
「そんな事ないよ、お前には負けるよ。聞いたぜ、全国大会制覇したらしいじゃないか」
「ああ、まあ俺一人の力じゃないからな」
禅は、そう言って笑った。賢一も笑いながら言った。
「お前はいいよな、才能が有って……昔からお前の周りは、お前を中心に回っているよ、俺はその中に居ただけだったからな、そう、ただ居ただけだ」
「そんな事ないさ、ここまで来たら俺にはバスケットしかないからな、お前は頭が良くてうらやましいよ」